初期の文献にみる「システム分析」の意義
C.J.ヒッチ&R.N.マッキーン、「核時代の国防経済学」、1960年
ドナルド.P.エックマン編、「システム〜研究と設計〜」、1961年
E.S.クエイド編、「軍事意思決定の分析」、1964年
E.S.クエイド&W.I.ブッチャー編、「システム分析と政策分析」、1968年

参考1 A.アベラ、牧野洋訳『ランド、世界を支配した研究所』、文春文庫、2011年
原書、Alex Abella, Soldiers of Reason, The RAND Corporation and the Rise of the American, Empire, 2008
参考2 システム分析の論文集、Penguin Books、1973年
参考1アベラ(2008)
1947年、エド・パクソン「システム分析」を発案
当時の空軍の課題:ソ連への先制攻撃の可能性分析
システム分析を活用した最初の報告書「戦略爆撃に関する航空機システムの比較」1950年

「システム分析は、ORから派生したもの・・大戦中、ORのアキレス腱となっていたのは、統計への恒常的な依存だった。ORは、実データがなければ機能しないため、システムについて研究しようとしても、そのシステムについての既知の事実に縛られるのだった。」
例:爆撃機の隊形をどうするかという問題(p96)

ORの問題
「手元にある航空機で敵の工場をどれだけ破壊できるのか?過剰な損害を被らないように飛行するには、どのような編隊が最も効果的なのか?どの程度のスピードで、どの程度の高度で飛んだらいいのか?」

システム分析の問題
「敵の工場をどれだけ破壊したいのか?どのような種類の工場を念頭に置いていて、それらの工場はどのような防御体制になっているのか?この目的を達成するうえで最善のルートは何か?どんな航空機で、どんな搭載物がいいのか?」

「ORは既存システムの研究を意味していたのであり、具体的な任務を実行するうえでより効果的な方法を発見するための道具であった。一方、システム分析は、代替可能なシステムのうちどれを選択するかという、ずっと複雑な問題を扱った。これらのシステムはまだ設計されてもいなかった。そのため、自由度と不確実性が大きく、何を、どのようにやるかを決めることが難しかった。」

「目的を定義することが、問題解決するうえで本当に重要である。」(p97)

「ORは一定のシステムが存在していると仮定し、すでにあるものから最善の結果を得ようとしていた。本質的には、以前から存在している環境へ自分を適応させるという、非常にヨーロッパ的な方法であった。」

「ランドのシステム分析はその中核的な部分でアメリカ的であった。つまり、すでに存在する現実に制約されることを拒んだ。システム分析は最初に次のような質問をするのであった。我々は何を望んでいるのか?我々の目的は何か?もし目的を達成する手段が存在しないのなら、武器であろうが航空機であろうが何であろうが、それらを作るのはどれだけ難しいだろうか?どれだけコストがかかるだろうか?どれだけの期間かかるだろうか?こんな具合だった。
 システム分析は夢をみることである。しかも大きく夢を見る自由を持っていた。現実の世界には一定の選択肢しかないという考えを捨て去り、自ら望む方向へ世界を変えてしまおうと努力するのだった。「我々ならできる」といった精神であり、人間が持つ無限の創意を信じるということでもある。乗り越えられないほど大きな障害や、解決できないほど複雑な問題など存在しない、と考える人間の思考方法である。」

「システム分析には弱点がある。その弱点は、いわゆる「的確な質問」をしなければならないのに、そんな質問に欠かせない仮説を精査していない場合に表面化する。」(p98)
クエイド(1968)
《システム分析の定義》

システム分析とは何か。多くの国防関係者はこの用語を狭義に解釈し、武器の設計や軍隊編成、兵力展開などの決定への計量的な経済分析手法ないしは科学的方法の適用と限定して考えているようである。
しかし、システム分析は一つの方法とか技法でもなければ、一組の特定の技法群というようなものでもない。
なぜならば、システム分析の性質は、分析の対象とされる問題の性質に大きく左右され、そのために、分析相互間に何らの類似性も認められないことが少なくないからである。
利用される技法は研究ごとに異なり、これらの研究を相互に結びつける方法論上の共通性も極めて限られたものである。
同様に、対象とされる問題とその問題に対してなされる設問いかんによって、それぞれの結論の形も多種多様なものとなる。
したがって、システム分析をその結果をまとめた報告書や要約書などの視点から定義すること、あたかも、形式のととのった、新鮮味のある文書は、いずれもすべて「システム分析」であるかのようにいうこともまた、誤りであるといわざるをえない。
もちろん、こうした言い方は便利な簡略法でもあるし、本書の執筆者たちもこうした言い方をしないわけではないが、しかしそれはシステム分析というものが、こうした文書ができあがる以前になされるものであるという事実を暖昧にしてしまう傾向がある。そしてこのことはすべての誤りの出発点となりうるものなのである。
さてシステム分析が一つの方法でも、一組の技法でも、報告書の一つの形式でもないとすれば、それは一体何なのであろうか?

システム分析は、正確には、 一つの研究戦略であり、利用可能な分析用具の適切な使用についての一つの見通しであり、そして、不確定性のもとで、複雑な選択問題に直面している意思決定者をどうすれば最もよく援助することができるかという問題に関する一つの実際的な哲学であるとしたいと思う。
適切で、簡潔な定義がない現状のもとで、本書では、システム分析という用語を、「問題に関連する専門家の判断と直観をひき出すための、適切な(可能な限り分析的な)概念の枠組を利用して、意思決定者の直面するあらゆる問題点を調査し、目的と代替案を探究し、それらの代替案を、予想される結果に照らして比較検討することによって、意思決定者が行動方針を選択するのを援助するための体系的なアプローチ」として特徴づけておくことにしたい。

 a systematic approach to helping a decision maker choose a course of action by investigating his full problem, searching out objectives and alternatives, and comparing them in the light of their consequences, using an appropriate framework-in so far as possible analytic-to bring expert judgment and intuition to bear on the problem

システム分析の論文集から
Charles Hitch (1955), An Appreciation of Systems Analysis
Stanford L. Optner ed., Systems Analysis, Selected Readings, Penguin Books, 1973

<システム分析の構成要素>
 軍事的な意思決定を支援するための最初の広範かつ明確な科学的手法の利用は、第二次大戦中に、オペレーション分析またはORによって行われた。類似の分析技法の小規模・部分的利用は長い間、共通だった。ギリシャの歴史家トゥキュディデスは、ペロポネソス戦争におけるアテネ人によるその利用例をその著「戦史」に記述している。

しかし、第二次大戦におけるオペレーション分析はその性格上限定的であった。それは短期的な将来の作戦に関連しており、部隊編成や長期的な作戦に影響する兵器や機材の開発にはふれていなかった。ORは、少数の独立変数のみを考慮していたという意味で、簡単であった。ORは、一般的に、ある作戦の選択にあたって、近似の明確な目的や判断基準を用いることができた。第二次大戦におけるその端的な例は、ドイツにおける攻撃目標を攻撃する際に用いる爆撃機の編成問題である。そこでは、所要の目標攻撃を達成する際の損失を最小にする明確な判断基準と変数を取り扱っていた。

第二次大戦後、RANDその他の研究機関は、極めて複雑な問題における軍事的意思決定を支援する分析方法を作成してきた。この一層複雑な分析には「システム分析」という用語が用いられるようになってきたが、ORとの違いは不明確であった。

ORも「システム分析」も軍事的意思決定の重要な問題に対して科学的手法を適用している。
(ただし、問題が科学的手法にとって特に適切ではない場合、真にアカデミックな研究者にとってみると科学的手法の適用対象には決して該当しない場合であるかもしれないが)

ORも「システム分析」も、共通している点は、
・達成すべき目的を明確にし、
・目的達成に必要な選択的技術や手法(あるいは「システム」)を明確にし、
・各システムが必要とする「費用」あるいは資源を示し、
・目的、技術、手法、環境、資源などの相互関係を示す一連の方程式や論理的枠組みや数式を用いる数学的モデルを活用し
・好ましい又は最適な選択肢を選択するに必要な判断基準、関連する目的、費用、資源を明示する点である。

第二次大戦後における軍事分析における「システム分析」では、ORを拡張して
・作戦支援だけでなく、部隊編成や技術開発の影響に関する分析を含め、
・関連する複雑な相互依存要素を対象とし、
・不確実性問題を明示的に対象rとし、
・敵のリアクションを明示的に考慮し、
・時間的要素を明示的に考慮し、
・目的と判断基準の広い考え方を対象としている。

 クエイド(1968)

《システム分析の陥し穴と限界》

・専門家も「間違い」を避け得ない。誤謬(推論の誤り)。分析は必然的に不完全である。
・効果の尺度は近似的である。・将来を予測するための満足な方法はない。
<間違いの原因>
・問題の定式化の重要性(第三者による検証可能性を確保)の軽視
 (システムの効果より方法を測定:爆撃の効果よりも出撃回数、輸送爆薬量を評価)
・事実にさからう硬直性(騎兵隊の役割の低下の例)
・一度得た信念への固執(代替案の範囲を狭める、党の方針の範囲内での検討等)
(目標物破壊のみを考慮して地上待機中の敵爆撃機に対する攻撃の効果を無視した例)
・偏狭性(新兵器の評価にあたって、比較対象に現状の陳腐化した兵器を用いた例)
・伝達不良(専門家との)(エンジン性能のみ評価して、エンジンの数を無視した例)
・モデルへの過度の専心(提起された問題よりもモデルの計算や技術的関係を重視)
・細目への過度の注目
・問題点の無視(問題解決に必要なモデルが不明だと、モデルは永遠に複雑化する)
・モデルの不正確な使用(経験と直感に照らした検討の必要性)
・限界の無視(モデルの適用範囲に関する制約の無視)
・統計的不確実性への専心(予知し得ない不確実性の無視)
・不確実性の無視(分析から除外されている要素の存在)
・副次的な論争点を規準として使用すること
・モデルを意思決定者の替わりにすること
・主観的諸要因の無視
・作業の再評価を怠ること